釈迦弥陀は慈悲の父母 種種に善巧方便し
    われらが無上の信心を 発起せしめたまいけり
高僧和讃
 人はいつか死ぬという事はみんな知っています。そして普段忘れています。
ただそのことをいろんな折々に思い出せるか否か、それによって同じ時間を過ごしたとしても生の密度が違ってくるものだと思います。
例えば、同じ一時間。夢中になり精一杯過ごした一時間は、あっという間に過ぎます。それでも充足感で心が満たされます。
無為に過ごした一時間(たまには必要かもしれませんがここではそのことはあえておいて置きます)は、長いかもしれませんが、後に心の空しさが残ります。
私たちの人生もかくの如し。
お釈迦さま最後の言葉は『では修行僧たちよ。汝たちに告げる。もろもろの現象は移ろい行く。怠らず努めるがよい』でした。
至極あたりまえのことですが、とても難しいことです。
 以前「ゾウの時間 ネズミの時間」という本がベストセラーになったことを思い出しました。生物学的な観点からの時間の考察であったかどうか内容は忘れました。しかしこの本が売れた事実は、私たちが、本質的に己に与えられた時間についての重みを頭のどこかに持っていることを示していると思います。
・時間の長さは常に一定ですが、その深さ(密度)は、どのように一瞬を過ごしたかで変 わりうるものです。
他の生き物と人間の違いは何処でしょうか。人間は死への不安・恐怖と引き替えに、今をどのように生きるかを思考できる能力を頂いたのだと思います。ただその能力を使うか否かは自分自身次第です。
 私事ですが、少し前、あるホスピス病棟の看護士長さん,担当ドクターと話し合いを持つ機会がありました。どういう理由か簡単に説明すると、7〜8年前よりそのホスピス病棟にビハーラ鹿児島がかかわってきました。当初毎週1回の割で僧侶が病棟に出向き、患者さん(ご家族)と気軽にお話したり、ボランティアの手伝いをしたりという活動を続けてきましたが、ここ数年、諸般の事情によりそれが途絶えがちでした。そこでもう一度どのような活動ができるかあるいはどのようなニーズがあるかをお互い話し合う会でした。いろいろな事をお話させていただく中で、訪問回数が減っても(月2回ぐらいにしましょう)確実な活動ができるようにするという方向になりました。また、2回のうち1回は希望者に呼びかけてロビーで短い法話会を開いたりしたらいいねという声も上がりました。ただ私は、確実性を取るなら、僧侶の人数(みんなそれぞれのお寺を抱えています)を勘案し4回に1回、すなわち2ヶ月に一度のペースぐらいがいいのかなと思いました。そこでそのように発言したその時でした、看護士長さんが遠慮がちに
「できれば2回に1回の割でして頂きたいのですが・・・」とおっしゃられました。
 そして
「・・・うちの患者さんは入院期間が平均一月から一月半なんです。ですから、2ヶ月に一度であれば、聞きたくても聞けない方、もう一度聞きたいけど間に合わないという方が沢山です・・・」
頭を殴られたような思いがしました。すべて自分の基準で時間をとらえていたのです。ここには、同じ一日を、一分一秒を、かけがえのない時として生きておられるお方が、そしてそのご家族がおられたのだ・・・。
 病棟を訪問させていただき、そして帰っていくたびに感じることがあります。いろんなお方の本に書かれてあることと同じなのですが、人が,見慣れた景色が輝いて見えるのです。
そして、あることばがおなかの底から湧いてきます。
「ああ・・・自分は今、生きているんだ・・・」  
多くの いのち と共に生かされていることがたとえようもなく嬉しく思えるのです。
・・・ホンの一時ですが・・・ネ。 ハハハ・・・
 お釈迦様の最後のことば『・・・・・怠らず努めるがよい』とは、私たちが日々を送る中で、聞こえてくる仏のことばに耳をすませよ という意味が含まれていると思います。
ただ、自分ことは棚に上げて申します。聞く姿勢、努力して聞かせていただこうとする事なしに聞こえてくる世界はありません。聞かせていただこうとする努力の先に聞こえてくる世界がひろがっているのです。
このことを親鸞さまは、蓮如さまは、 

聴聞ちょうもん  そして「聴聞せよ」とおっしゃいました。

※ビハーラ(鹿児島)活動
ビハーラとはインドの古語であるサンスクリット語で「精舎・僧院」「心身のやすらぎ・くつろぎ」「休息の場所」を原意とします。誰もが抱える老・病・死の苦悩について、医療や福祉だけでなく、仏教徒が一緒になって応えていきたいという願いのもと展開される活動です。
病院や高齢者施設におられる方々またそのご家族などの精神的な不安や苦悩に寄り添いやわらげていこうとする活動をビハーラ鹿児島でも微力ではありますがいくつか行っています。詳細は事務局まで

ビハーラ鹿児島事務局  本願寺鹿児島別院内
099-222-0051(代表) fax099-226-4526

ビハーラ「こころの電話」は、本願寺派僧侶が、生・老・病・死に関するお悩みをお聞きいたします。
ビハーラ・ライン こころの電話 開設日 毎週金曜日 14:00〜16:00
電話番号 099-222-1440
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